第11章 信愛…
僕達を乗せた汽車はやがて人気のない、寂れた駅に停まった。
「足元に気を付けて?」
荷物を潤に任せ、僕は足元すら見えないだろう智子の手を引いた。
揃って駅に降り立った僕達は、そのまま迎えの馬車に乗り込むと、潤の生家へと向かった。
「田舎で驚いたろ?」
四方どこを見ても田畑の広がる景色に、潤が苦笑する。
「いえ、そんなことは…」
「俺はね、この景色が嫌いでね…。いつか都会に出て一花咲かせてやる、なんて良く意気込んでいたもんだよ」
「あら、どうして? 智子は好きよ? ほら見て? 綺麗なお花だって咲いてるわ」
智子が身を乗り出し、少し先に見える花畑を指差した。
「智子、そんなに身を乗り出しては危ないよ」
初めて見る景色に興奮気味の智子がどうにも危なっかしくて、僕は智子の小さな手をきゅっと握ると、細い肩を抱き寄せた。
でも智子が興奮する気持ちは、分からないでもない。
僕はいつだったか、父様に連れられて行った北欧の景色を思い出していた。
どこだかもう忘れてしまったけれど、あの時見た風景に、どこか似ているような気がして…
僕は智子の巻き髪を指に絡めながら、彼の地へ思いを馳せていた。
「ねぇ、兄さま? お花を摘んで花束を作りましょ? それでおじさまとおばさまに贈るの。どうかしら?」
「そうだね、それはいい考えだね。潤先生、馬車を…」
智子の思い付きに、潤が丁度花畑の脇の畦道に馬車を止めさせた。