第11章 信愛…
汽車に揺られること数時間…
車窓から見える景色を一面の緑に染めていた。
「兄さま…、ここは…?」
僕の膝で寝ていた智子が少しだけ首を持ち上げ、窓の外に目を向けた。
「もうすぐで俺の田舎に着くよ」
僕の代わりに潤が答える。
「潤先生の?」
「そうだよ。こんな田舎で驚いただろ?」
「ううん、とっても綺麗だわ。ねぇ、あれはなぁに?」
智子は窓から見えては過ぎて行く景色に、しきりに驚きの声を上げた。
当然だ…
智子は屋敷の中の、あの小さな世界しか知らないのだから…
きっと見る物全てが物珍しくて仕方がないんだ。
「智子、身体は辛くないかい?」
僕は今にもはち切れそうな智子の腹に手を当てると、優しく撫でた。
すると、僕が触れたのが分かったのか、智子の腹の中で何かがぴくんと跳ねたのが分かった。
「ねぇ、今赤ちゃん動いた…よね?」
僕は初めてのことに驚きを隠せず、今度は智子の腹に耳を当ててみる。
そして、
「聞こえるかい? 僕がお父さんだよ」
返ってくる筈のない返事を期待して呼びかけた。
「やだわ、兄さまったら…。潤先生が見てるのに…。それに、他にもいっぱい人がいるのに…」
余程恥ずかしかったのか、智子の赤く染まった頬が膨らむ。
「構いやしないさ。だって僕はお父さんになるんだから。智子だってお母さんになるんだよ? 恥ずかしいことなんてあるもんか」
「兄さま…。そうね、智子、お母さんになるんだものね?」
そう言って含羞んだように笑った智子の顔は、やはりどこか不安の色が隠せなかった。