第10章 傀儡…
ちりりと小さな痛みを感じて、僕は顔を顰めた。
それでも僕は握った手を緩めることはしなかった。
堕ちればいい、地獄へ…
そして智子の無垢な心と身体を穢した罰を受けるがいい…
その時は、父さん…
僕も一緒に逝くから…
決して許されることのない禁忌を犯した罰を、僕も一緒に受けるから…
僕は閉じていた瞼をかっと見開き、奥歯をぎりりと噛んだ。
その時、不意に僕の視界に、まるで雲がかかったような影が出来、ずしりとした重みが僕の上にのしかかった。
「父…様…? 父さ…!」
父様の手からペーパーナイフが滑り落ち、僕の耳の横でからりと音を立てた。
「あなたがいけないのよ…? あなたが私を愛してくれないから…。あなたが…」
僕に覆い被さるようにして倒れ込んだ父様の下から這い出て、声のした方に目を向ける。
母…様…?
血の気を失くした顔に薄く笑を浮かべ、ゆらりと立ち上がった母様の手は真っ赤に染まっていて、その手には同じように赤に染まった包丁が握られていた。
「母様っ…!」
僕は力を失くした父様の身体を上向かせると、その口元に手を翳した。
でも一向に息が触れることはなく…
「死んで…る…?」
良く見ると、元々は玉虫色だった筈の着物の胸の部分が、どす黒く染まっていて、そこから溢れた赤い液体が床をも赤黒く染めていた。
「なんてことをっ…」
潤が僕を押しのけて、手首、そして首筋に指を宛てがった。