第10章 傀儡…
掴まれた手首が、強烈な力で捻り上げられ、僕の手からペーパーナイフが滑り落ちた。
「ぐっ…ぁぁっ…」
引き結んだ唇の端から呻きが漏れる。
「くくく、痛いか? そうだろな…。でもな、翔? 一人息子に裏切られた父の、この胸の痛みが幾許(いくばく)か分かるか?」
般若の麺に笑を浮かべ、父様が僕を見下ろす。
そうだ…この目だ…
この蛇のような目に、僕は支配されて来たんだ、ずっと…
きっと母様も同じ。
智子と言う、父様に逆らうことの出来ない弱みを見せつけられ、どんなに心が痛かったことか…
だから母様は智子にあれ程辛く…
でも…僕はもう父様に支配されるだけの、小さな子供じゃない!
僕は全身の力を振り絞って、空いた手で父様の胸を突くと、一瞬怯んだ隙に腕を振り切った。
そして僕の足に縋り付く智子の肩を抱くと、
「今のうちに…、さあ…」
脱力した身体を抱き起こし、開け放ったままの窓に向かった。
その時、
「危ない!」
潤の声に僕は一瞬振り返った。
「う、うわっ…!」
僕の目に飛び込んで来たのは、ペーパーナイフを振り翳し、今にも僕に突き立てようとする、本物の鬼と化した父様だった。
僕は智子を突き飛ばすと、ペーパーナイフの切っ先が刺さる寸での所で父様の手を掴んだ。