第10章 傀儡…
どうか違うと…
父様が仕組んだことではないと言ってくれ!
でも僕の祈りにも似た願いは、
「だったらどうだと…?」
父様の放った一言によって、無残にも砕け散った。
許さない…!
智子を自分の性欲を満たすための道具と扱っただけでなく、母様にまで…
僕はすぐ側にあった机に手をかけると、ゆらゆらと立ち上がり、机の上にあったペーパーナイフを手に取った。
殺してやる…
それは僕の中に初めて芽生えた感情だった。
震える両手でペーパーナイフの柄を握り締める。
「ほう…、そんな物で私を…? くくく、お前に私が刺せるのか?」
「出来るさ…僕にだって…」
じりじりと距離を詰める足が震える。
僕が殺らなきゃ…
僕は父様に向かってペーパーナイフを振り翳した。
両目を固く閉じ、奥歯をきつく噛み締めた。
でも、
「やめて! 兄さま、やめて!」
智子の悲鳴とも取れるような声に、ペーパーナイフの先が父様の喉元に刺さる寸での所で手を止めた。
「お願い、兄さま…。そんな事をしたら、兄さまが…穢れてしまう…。智子…そんなの嫌よ…」
僕が肩にかけてやった外套をはらりと翻し、僕の足元に縋り付く。
「ああ…、智子…どうして…」
僕の両足に細い腕を回し、必死に縋る智子に一瞬気を取られた、その時だった。
ペーパーナイフを握った手が、一回り大きな手に掴まれた。