第10章 傀儡…
「それにしても…、血の繋がった妹に手を出すとは…何と愚かな…」
蔑むでもなく、諌めるてもない、まるで嘲笑うような…下卑た双眸が見下ろす。
「例え血の繋がった妹だろうと何だろうと、僕は智子を…」
「愛しているとでも言いたいのか? くくく、それこそ愚の骨頂だな」
愚かだと詰られたって構わない。
それでも僕は智子を…
「クッ…、翔…く…ん、智子さんを連れて早くっ…、ぐぁっ…!」
後ろ手に纏めた潤の手を捻り上げた。
「ああっ…、父さまおやめになって…、潤先生が…」
僕の腕の中で智子が父様に向かって懇願する。
でも父様は意に介した様子もなく更に強く捻り上げると、醜く歪ませた顔に笑を浮かべた。
「そうだ、翔…。お前に面白い話を聞かせてやろうか…」
面白い…話…?
この期に及んで何を…
僕はキッと父様を睨み付けると、僕の胸にしがみつく智子を窓辺へと押しやった。
「お前は智子が、私が外で作った子だと思っているようだが、それは大きな間違いだ。智子を産んだのは、お前の母親…、つまりお前と智子は、父親こそ違え同じ腹から産まれた兄妹なんだよ」
「…えっ…?」
僕と智子が同腹だと…?
だとしたら母様が不貞を…?
そんな馬鹿な…、母様に限ってそんなこと有り得ない。
「う、嘘だ…、だって母様は…」
普段は感情こそ見せないけれど、いつだって父様の事を想っては、一人涙していたのに…
母様が父様を心から慕っていたのを、僕は知っている。