第10章 傀儡…
周りを伺うようにして智子のいる場所まで歩み寄る。
そして着ていた外套を脱ぐと、何も身に纏っていない智子の肩にかけた。
「智子、僕と行こう」
僕は智子の手を取ると、小さな肩を抱き寄せた。
「駄目よ…兄さま…。智子一緒には行けない。だって智子は…」
「何を言っているんだい? 智子は穢くなんかないし、父様のお人形なんかじゃないんだよ? それに智子のお腹には僕達の赤ちゃんがいるんだよ?」
「赤…ちゃん…?」
自分が妊娠していることに気付いていなかったのか、智子が目を丸くする。
そして自分のお腹に手を宛てると、僅かな膨らみをそっと撫でた。
「ここに…智子と兄さまの赤ちゃんが…?」
「そうだよ? 僕と智子の…!」
そこまで言って僕ばハッと息を飲んだ。
智子の肩越しに、まるで潤を盾にするかのように、前髪を鷲掴み、両手を後ろ手に纏めあげた父様が、恐ろしい程の形相で立っていた。
「ほお…、智子の腹の子が誰の子かと思っていたら…まさか、翔…お前の子だったとはな? よくもこの父を謀ってくれたものだ」
「父…様…」
じりじりと距離を詰めてくる圧倒的な威圧感に、僕の心臓が痛い程に騒ぎ出す。
「私の大事な人形に手を出すとは恐れ知らずな…」
人形…
父様の口から吐き出されたその一言に、僕の全身の血液が音を立てて沸き上がってくるのを、僕は小さな身体を抱きしめながら感じていた。