第10章 傀儡…
全ての神経を、僅かに覗き見える部屋の中に集中させている時間が、一分が十分にも一時間にも感じられた。
そして…
漸く父様が智子から離れた瞬間、僕は窓の取っ手に手をかけ、暫く様子を伺った。
よし、今だ…
汗ばむ手で、音を立てないようゆっくりと捻り、身体が通るだけの隙間を開けると、その間から身体を滑り込ませた。
「智子、僕だよ…」
カーテンに身を隠し、声を潜めた。
「兄さま…? 本当に兄さまなの…?」
「しっ、静かに…」
僕が指を唇に宛てる仕草をすると、智子は辺りを見回し、簡素な台の上にゆっくりとその身を起こした。
「そうだよ、僕だ。さあ、ゆっくりこちらへ…」
カーテンの隙間から手だけを出し、手招きをする。
でも、智子がこちらに来る気配は一向に感じられなくて…
「どうしたんだい? 早くこちらへ…」
気持ちだけがやたらと急く。
「駄目よ、兄さま…。智子、行けないわ…」
「どうしてっ…」
「智子は父さまがお許しにならないわ…。それに智子、とっても穢い…」
泣いているんだろうか…
言葉尻が濡れているように感じる。
「そんなことは無い、智子は穢れてなんて…」
「ううん…、穢いわ…。だって智子は…父さまの…お人形だから…。このお部屋にある、何体ものお人形と同じ…。智子は心を持ってはいけないの…」
そんな…
智子が心を持たない人形と同じだなんて…
そんなこと…
僕はカーテンを捲ると、蝋燭の明かりの元に姿を晒した。