第10章 傀儡…
未だ泣き崩れたままの母様を横目に、僕と潤は階段を登り始めた。
「あなた達、どうするつもり…?」
背中にかけられた母様の声に、僕も、そして潤も階段の途中で足を止めた。
「大丈夫、智子はちゃんと助け出すから…」
僕は振り返ることなく答えると、残りの階段を一気に駆け上がった。
潤と無言で目配せをして、書斎のすぐ隣の部屋の扉を、音が立たないようにそっと開け、僕は足音を忍ばせながら窓辺へと向かった。
普段は客間としてしか使っていない部屋だから、当然窓には鍵がかかっていて、それを外そうとした指をかけると、手にびっしょりとかいた汗で滑ってしまう。
落ち着け…、落ち着くんだ…
何度も自分に言い聞かせ、漸く開いた窓から露台へと出た。
ふと下を見ると、何度も見てきた筈の景色が、真っ暗な闇に包まれていて…
そのまま飲み込まれてしまいそうな錯覚に陥る。
駄目だ…、こんな所で怯んでいては駄目だ…
俄に震え出した両足を鼓舞するかのように壁に背中を着け、父様の書斎の窓までにじり寄った。
そして僅かに光の漏れるカーテンの隙間から、書斎の中を覗き見た瞬間、
「ひっ…!」
僕は思わず息を飲み、慌てて口元を両手で覆った。
なんてこと…
まさか父様がこんな…
僕が幼い頃から尊敬して止まなかった父様が…
今は獣に見える…