第9章 惑乱…
潤が帰った後、二宮と二人きりになった部屋で、僕は二宮が持って来てくれた丼を掻き込んだ。
「おいおい、そんなに慌てなさんな…」
口の中一杯に頬張る僕に、二宮が湯呑みを差し出す。
僕はそれを箸を握ったままの手で受け取ると、一気に口の中に流し込んだ。
別にそれ程お腹が空いてるわけじゃない…
今のままの僕じゃ駄目だ。
こんな細い腕では、智子を…智子とそしていずれ産まれてくる僕達の子供を守れない。
もっと力を付けなくては…
もっと大人にならなくては…
「あのさ、これは一つの提案なんだが…」
空になった丼をちゃぶ台に置くと同時に、二宮がちゃぶ台に両肘を着き、口を開いた。
「その…仮に智子さんを連れ出すことが出来たとして、行く宛なんてないんだろ? だったら、暫くお袋の店に身を寄せてはどうかと思ってな…」
「えっ…?」
思いもよらない申し出に、驚きの声を上げると同時に目を見開いた。
でも…
僕は瞼を伏せると、小さく首を横に振った。
「有り難い話だけど…それは出来ないよ。二宮君に迷惑はかけられない」
「俺は別に…」
「二宮は知らないから…、父様の怖さを…」
智子が攫われたとなったら、父様は黙ってはいないだろう…
きっと怒り狂うに違いない。
僕達がもし二宮君の家に身を寄せていることを知れば、当然二宮君は勿論のこと、二宮君のお母さんにも危害が及ぶ可能性だって考えられる。
それだけは絶対に避けなくては…