第2章 初恋…
転げるように階段を降りた僕は、屋敷の奥にある台所へと、一目散に向かった。
「照、照はいないか?」
声をかけるが、見渡す限り照の姿はなく、ただかまどの上に乗せた羽釜が、グツグツと音を立てていた。
ここじゃないのか…
諦めて踵を返した、その時…
勝手口の扉が開いて、竹で出来たざるに、山盛りの野菜を抱えた照が姿を現した。
そして僕を見るなり、ざるを調理台に置き、前掛けで手を拭った。
「坊ちゃん、何か御用でしたか?」
「智子が…」
「お嬢様がどうされたんです?」
冷たい訳じゃない。
でも感情のない声が僕を口篭らせる。
「坊ちゃん?」
「救急箱を…。智子が怪我をしたんだ。それで…」
僕の言葉に、別段驚いた様子も見せず、照は食器やらを仕舞った棚の扉を開いた。
そしてそこから赤い十字の印が付いた木箱を取り出した。
「坊ちゃんが手当を?」
救急箱を僕に差し出しながら、照が首を傾げる。
「いや、潤…先生が…。医学の心得があるみたいだから…」
「そうですか、ならば安心でございますね」
「そう…だね」
悔しいけど…
智子に怪我をさせたのは僕なのに、何もして上げられないのが、悔しくて堪らない。
「これ、借りてくね?」
照から受け取った救急箱をギュッと胸に抱くと、僕はせり上がってくる感情を照に見られまいと、背を向けた。