第2章 初恋…
「兄さま、どうされたの?」
智子から逃れるように一歩後ずさった僕を、智子の屈託のない瞳が見上げる。
きっと無意識なんだ…と思う。
外の世界を知らない智子に、“男”と“女”の違いなんて、分かりはしないのだから…
でも…
でも…!
だめだ…
そんな風に僕を見ないで…
そんな目で見つめられたら僕は…
もう自分を抑えられなくなってしまう…
「僕は部屋に戻るよ。すぐに照を寄越すから、手当をして貰うといい…」
視線を合わせず、そう言うのが精一杯だった。
その時…
「その必要はないよ。智子さんの傷は俺が見よう」
いつからそこにいたのか…
開け放したままの扉に凭れ掛かるようにして、松本潤が立っていた。
「潤先生、いつからいらしたの?」
智子の顔が一瞬にして綻ぶ。
そんな顔…僕は知らない…
「母君が血相変えて階段を降りて来られたんでね…。何事かと思ったら…。どれ、見せてごらん?」
ゆっくりとした足取りで僕の横を通り抜けた潤は、何の躊躇いもなくベットの端に腰を下ろすと、智子の傷口の付近を指で撫でた。
確か父様に聞いたような気がする。
潤は医者を目指している医学生だ、と…
「翔君、申し訳ないが、照さんの所に行って、救急箱を借りてきてくれないか?」
どうして僕が…
奥歯をギリッと噛むが、その言葉に逆らえることはなく…
僕は部屋を出ると、一気に階段を駆け下りた。