第9章 惑乱…
潤の立てた計画はこうだ…
婚礼の儀式のために屋敷を出た智子を、ホテルの控え室に入ったところで、僕が攫う…
口で言ってしまえば至極簡単なことなんだろうけど、実際はそんなに簡単なことではないだろう…
婚礼ともなれば、智子の傍には、常に誰かが着いているだろうし…
それに父様のことだから、初めて外の世界に出る智子に、蟻一匹だって近付けないよう、きっと厳重な警備を配置するだろう。
そうなったら、僕の忍び込む隙なんて、どこにもありはしない。
それに、仮に智子を連れ出せたとして、身重の智子を連れてどこまで逃げられるか…
正直、僕には自信がない。
「不可能ですよ、そんなこと…。出来っこない…」
僕は緩く首を横に振ると、情けない声を上げた。
「ああ、確かに難しいかもしれない。だが、君はそれでいいのかい? このままだと、智子さんは俺の物になることになるが…」
「それは…」
智子をこの手に…
その気持ちが無いわけじゃない。
でも…でも、怖いよ…
怖くて堪らない。
「出来るのでしょうか…、僕に…」
ただひたすらに智子を愛することしか出来ないこの僕に…
「出来るさ、君なら…。それに、智子さんもきっと君を待っていると思うよ? 君が迎えに来てくれることをね…」
悔しいけど…
潤は最後にそう付け足すと、そっと瞼を閉じた。