第9章 惑乱…
「そうか…。それをならば…」
そう言って潤は胸の前では両腕を組むと、小さく息を吐き出してから、僕を真剣な眼差しで見つめた。
「俺に考えがあるんだが…。勿論、君さえ良ければの話なんだがね?」
と、前置きをしてから、一度は組んだ腕を解いた。
「俺と智子さんの婚礼の日取りが決まったことは、君も知っているね?」
「え、ええ…」
その話を照から聞かされた時に僕が受けた衝撃たるや、とても言葉では言い表すことが出来ない程のものだった。
「では婚礼の場所については?」
「いえ、そこまでは…。でも屋敷でするんでは?」
父様のことだ…、智子を屋敷の外に出すなんてこと、考えられない。
「それが違うんだよ。どうやら、義父上は懇意にされてるホテルの広間を手配されているようでね…」
「そう…なんですか? それはどこの…」
「君も名前くらいは知っているだろうが、生田…とか言ったかな…」
生田…
その名前には聞き覚えがあった。
生田の叔父様とは、小さい頃に会ったきりだが、生田家の長男、斗真とは学生時代の先輩後輩に当たる間柄だ。
父様のみならず、僕と斗真も旧知の仲、と言っても過言ではない関係だった。