第9章 惑乱…
「どこへ行くつもりだ…」
裸足のまま玄関を出た所で腕を捕まれ、僕は部屋の中へと引き戻された。
「離して下さい…。行かないと…」
「だから、どこへ…」
「智子を…智子をあの家から連れ出さないと…」
「連れ出してそれから? 君に考えがあるのなら止めはしないが、そうでなければ…」
それからどうするか、って…?
それを僕に問うのか?
この僕に…
「離せ…」
僕は潤の手を振り払うと、再び玄関に向かって足を向けた。
でも、僕よりも体格の良い潤の前では、僕に為す術はなく…
潤の手のひらが僕の頬を掠めた瞬間、僕は壁に向かって弾き飛ばされた。
「ぼ、僕に…この僕に手を上げるなんて…、なんて無礼な…!」
僕は壁際に蹲ったまま、潤を睨みつけた。
それでも潤は臆することなく僕の前では膝を折ると、僕の胸倉を掴んだ。
「君が智子さんを案ずる気持ちは分かる。だが今は冷静になれ」
冷静になんてなれるわけが無い。
こうしている間にも智子は父様に…
そう思ったら、腹の底から湧き上がってくる吐き気を感じた。
「もし…、父様に智子のお腹の子のことが知れたら…智子は…どう…?」
僕は震える手で潤の腕を掴んだ。
すると僕の胸倉を掴んだ手を解き、
「子供は諦めることになるだろうな…」
苦しげに声を詰まらせた。