第9章 惑乱…
俄には信じ難い潤の話に、僕はまるで脳天を金槌で打たれたような衝撃を受けた。
厳しい人ではあったけど、僕はそれでも父様を尊敬さしていた。
でもまさかそんな…
あの父様がそこまで智子を…
「信じられない…と言った様子だが、大丈夫かい?」
言葉を失くしてしまった僕の肩を潤が揺する。
「え、ええ…」
「俺も驚いたよ…。あの厳格な方が、まさか…と思ってね…。でも、事実なんだよ…」
「そん…な…」
もし…もしも、潤の話が全て事実だとしたら、父様は倒錯した性癖の持ち主と言うことになる。
その特異な性の対象に、智子が…?
「言い難いことだが、義父上はペドフィリアな上に、ペディオフェリアと言うことになる」
聞き慣れない言葉に、僕は首を傾げる。
「あ、あの…、そのぺド…って言うのは…」
「ああ、すまない。その…“ぺドフィリア“と言うのは少女性愛。そして“ペディオフェリア”は、人形愛好者…。つまり義父上は智子さんを人形として愛していたんではないかと…」
あくまで推測に過ぎないが…
そう付け足して、深く長い息を吐き出した。
父様が…
あの父様が…?
僕は再び瞼の裏に浮かんだあの光景を振り払うように、頭を激しく振った。
信じられない…
いや、例え潤が見た物が事実だとしても、僕は信じたくない…
僕はふらふらとその場に立ち上がると、覚束無い足取りで玄関へと向かった。