第9章 惑乱…
「そうか…。実を言えば俺もずっと気にはなっていたんだが…。つい先日、たまたま…覗いてしまったんだ…」
「覗いた…って、父様の書斎を…?」
息子の僕ですら、見たこともないあの部屋を…?
「本当にたまたまだったんだ…。でも今は、興味本位とは言え、見なきゃ良かったと思っているよ…」
それは…
開かずの間の扉を開けてしまったことへの懺悔なのか…、それとも後悔なのか…
複雑な表情を浮かべる潤を、僕はただただ見つめていることしか出来なかった。
「君は知っているかい? あの部屋に何があるか…」
聞かれたって、僕が知る筈もないのに…
答えようのない質問に、僕は首を傾げた。
「知りたい…か…?」
「それは…」
知りたいか、知りたくないか…
そう問われれば、僕の答えは紛れもなく前者だ。
でもそれを知ったところでどうする?
何かが変わるのだろうか…
分からない…
でも僕は…
「教えて下さい。あの部屋に何が隠されているのか…、僕に…」
汗ばむ手のひらを握り締め、僕は潤の前に一歩膝を進めた。
「分かった。だが、他言は無用だ。義父上の名誉にも関わることでもあることだからね?」
「勿論…です…」
僕だって父様を貶めたいわけじゃない。
ただ、知りたいだけなんだ、あの部屋に隠された秘密を…
父様が、何故智子にあれ程までに執着するのか…、その答えはあの部屋にある筈だから…