第9章 惑乱…
僕だって出来ることなら…
智子と、智子のお腹に宿った小さな命を守りたい。
でも今の僕に何が出来る?
智子をあの屋敷から連れて逃げる勇気すらない、この僕に…
「本音を言えばね、俺の…と言うことにしてしまおうかとも思ったんだがね…。そうすれば、義父上も納得されるんではないか、とね?」
僕と智子の間に出来た子を、潤のことして…?
確かにそれなら誰に咎められることはないだろう…
でも…、でも…
「ただ、それでは智子さんが余りにも可哀想でね…。それに、義父上の智子さんへの執着は、俺の目から見ても、何と言うか…」
「異常…、だと…?」
潤が飲み込んだ言葉の先を、僕が代わりに口にする。
別段驚く様子を見せることなく、潤は小さく頷き、瞼をキュッと固く閉じた。
「君に言おうか言うまいか迷ったんだが…。君は義父上の書斎に入ったことは?」
「いいえ、僕は一度も…」
いつだってあの部屋には鍵がかかっていたから…
でも僕はあの晩、期せずして見てしまったんだ。
あの部屋で、父様が智子に淫らなことをしているのを…
僕は窓の下から見てしまったんだ。
その時の光景は、数ヶ月経った今でも、この瞼の裏に焼き付いて離れることはない。
思い出す度、吐き気が込み上げる程、おぞましい光景だったから…