第9章 惑乱…
そんな…
まさかそんなことが…
「何かの間違いでは…」
もし潤の放った言葉が事実だとしたら、僕はどうしたら…
智子はどうなってしまう…
「いや、医者の俺が言うんだ。恐らく間違いはないだろう…」
愕然とする僕に追い打ちをかけるように、潤の自信に満ちた言葉が降り注いだ。
「か、母様はこのことを…?」
「勿論ご存知だ。何せ、俺よりも長い時間を過ごしてらっしゃるからね…」
一度は開け放たれた窓が、ピシャリと音を立てて閉められる。
そして再び座布団の上に胡座をかいた潤は、僕が差し出したお茶を一気に飲み干した。
そして、
「まさか君にお茶をいれて貰うとはね…。想像したことも無かったよ…」
冗談交じりに言って、ほんの一瞬顔を綻ばせた。
「あの…僕は一体どうしたら…」
自分ではどうにも纏まらない疑問を、目の前で翳りのある顔に無理矢理笑を浮かべる潤に向かって投げかけた。
「それを俺に聞くのかい…?」
「あっ…、すみません…、つい…」
そうだ、潤は曲がりなりにも智子の婚約者だ。
その潤に向かって僕は何てことを…
これでは傷に塩を塗り込むような物だ。
「いや、構わないよ。俺の方こそ感情的になってしまって申し訳無かった」
謝る必要なんてないのに…
僕が智子を愛しているがために、この人は深い傷を負っているのに…