第8章 慕情…
潤を見送り、一人になった僕は、潤が携えて来た風呂敷包みを解いた。
中には、着の身着のままで家を飛び出して来てしまった僕の着替えが何着かと、学校の教本やらがあって…
僕はそれら順に備え付けの引き出しに仕舞い、教本の類いは文机の上に並べた。
そして包みの中にあった袢纏を羽織ると、僕は薄暗くなった部屋に電球の明かりを灯した。
その時になって漸く、風呂敷の一番下にあった、櫻井家の家紋の入った封筒に気が付いた。
僕は恐る恐る恐る封を開けると、中に入っていた便箋を取り出した。
封筒と同じく、櫻井家の家紋入りの便箋を…
そこには、普段の母様からは想像も出来ないような、柔らかで柳眉な文字で、
「翔、何の理由も告げず貴方を屋敷から追い出すような真似をした母を許して下さい。
父様はまだ貴方と智子のことには気付いていません。
でもいずれは…
その時が来たら、この命をかけてでも、貴方と智子を守るから安心なさい。
今は堪えて…」
と綴られていた。
母様…
僕は手紙を胸に当てると、零れ落ちそうになる涙を手の甲で拭った。
そして便箋を元の通りに畳み、封筒に仕舞おうとした時、封筒の中にもう一枚の便箋が入っていることに気が付いた。
「これは…智子の…?」
母様のとは違う、智子の頬のような薄桃色の便箋が、封筒の中には残っていた。