第8章 慕情…
『兄さま…、愛しい兄さま…。
兄さまに会いたい…。
兄さま、
智子は兄さまを心からお慕いしています…
だから…だから、早く智子を迎えに来て…
兄さまに会いたい…』
ああ…、智子…!
僕だって出来ることならば、今すぐにでも智子の元へ駆けて行って、その愛らしい頬に…髪に…唇に触れたい…
智子を取り巻く全ての物から、君を奪い去ってしまいたい!
そしてその小さな肩を、この腕に抱きしめてやりたい…
でも今の僕には、それすら許されないんだ…
許しておくれ…
智子を悲しませる僕を、どうか許して…
僕は智子の書いた、花のように愛らしい文字を一つ一つ指でなぞり、そして便せんの片隅に残った涙の跡に口付けを一つ落とした。
智子、待っていておくれ?
必ずや僕は君を攫いに行くから…
それまでどうか…
僕はその晩、智子の甘い香りが染み付いた便箋を枕元に置き、床についた。
会うことが叶わないのならば、せめて夢の中だけでも…
目が覚めた瞬間に消え去ってしまう幻だとしても、僕は智子に会いたかった。
幻でもいいから、愛しい智子を抱きしめたかったんだ。
智子の身に大変なことが起きているとも知らずに…
『慕情…』~完~