第8章 慕情…
だって母様は…
僕が智子に近寄ることすら許さなかったのに…
それも全て智子を愛するが故だったと…?
あの氷のように冷たい顔の下で、智子を案じて涙を流していたと…?
僕にすら気取られないように…?
「男とも女とも区別のつかない身を持つ智子さんが、傷付くのを恐れておられたんだよ、義母上は…」
「て、でも…、それならどうして僕に何も…?」
「それは…俺が思うに、義父上が関係しているんではないかと…」
母様が唯一異を唱えることが出来ないのは、それは父様ただ一人…
でもそれなら尚更僕に…
「義父上の智子さんにかける愛情は度を越しているとは思わないか? こう言っては何だが…、異常と言うか…」
言われてみれば…
あの赤い紅を引いた智子を見る父様の目…
あれは父親が娘に向ける目ではなかった。
明らかに男のそれと思われるような…
「あっ…」
「どうした?」
いっその事打ち明けてしまおうか…
僕があの晩庭から見た、あのおぞましい光景のことを…
父様が智子に何をしていたのか…
「実は…」
いや…、まだだ…
僕はまだ潤のことを信用したわけじゃない。
「い、いえ…なんでも…」
喉まで出かかった言葉を僕は飲み込んだ。
すると潤はそれまで胸の前で組んでいた腕を解き、綺麗に整えられた髪をくしゃりと手で混ぜ、
「どうやら俺は君に相当嫌われているようだな…」
苦笑を浮かべながら、自嘲気味に言った。