第2章 初恋…
「いいのよ、兄さま。智子、大丈夫よ」
そう言って智子がふわりと笑う。
「智子…」
僕は堪らず学生鞄を放り出すと、智子の華奢な身体を抱きしめた。
「兄さま? どうしたの、今日の兄さまおかしいわ?」
そうだよ、僕はおかしいんだ。
妹なのに…
ちゃんと分かってるのに…
なのに智子のことを考えるだけで、胸が張り裂けそうな程に高鳴って仕方ないんだ。
「智子…」
僕は智子の背中に回した腕に更に力を篭めた。
その時だった…
「何をしているの、貴方達…。智子、翔から離れなさい!」
激しく叱責する声に振り返ると、そこには能面のような顔を般若の面のように歪ませた母様が立っていて…
その手は、怒り…だろうか、小刻みに震えていて…
「兄を誑かすなんて…、ああなんて穢らわしい…」
吐き捨てるような母様一言に、一瞬の内に智子の顔から笑顔が消え、大きく見開いた目には、今にも零れ落ちそうな涙が溜まっている。
「母様、智子は悪くない。僕が…!」
「翔はお黙りなさい」
動けずにいる智子を庇うように立ちはだかろうとした僕に、母様の氷のように冷たい声が降り注ぎ、そして高く振りかざした手が、僕の目の前で振り下ろされた。