第14章 本日の近侍 山姥切国広その2
何か考えるような表情をした後、山姥切は俯いてしまった。
やはり、彼に冗談は通じないようだ。
「山姥切?」
彼の顔を覗き込むが、その険しい表情からは何を考えているか全く窺い知れない。
怒ってるようにも見えるし、考え込んでいるようにもみえる。
もしかしたら、呆れられたのかもしれない。
こんな主じゃ、さすがに呆れたくなるよね。
「ちょっとふざけすぎちゃったね。ごめんなさい」
確かに、許可なく男士の部屋に立ち入るのはルール違反だ。
ここにいない方がいい。
そう思って襖を開けようと手を伸ばすと、山姥切に腕を掴まれる。
「えっと……山姥切?」
無言で私の腕を掴む彼の顔は、相変わらず険しい表情だ。
もしかして、相当怒っているのでは。
「本当に……明日までここにいるんだな?」
「……え?」
何言われたのかな、いま。
一瞬、質問の意味が理解できなかった。
私は今、山姥切に『明日までこの部屋にいるのが本当なのか』を確認された、と思われる。
思わず聞き返してしまったが、どうやら聞いてはいけなかったらしい。
山姥切は、一瞬だけ顔をしかめた後、一気に顔を真っ赤にした。
「だからっ、その……今夜っ」
はっきりと言わない彼の様子に、何故かピンときてしまった。
困った。
ようやく山姥切の言わんとしていることが理解できたと言うのに。
どうしよう。
彼に言わせたい。
こんなに顔を真っ赤にして、恥ずかしがってる。
もし、このまま彼に全部言わせたら、どうなってしまうんだろう。
そんな加虐心に火がついてしまった。
「山姥切、どうしたの?もう一回言ってくれる?」
鈍いやつと思われてもいい。
私は今、とてつもなく貴重なものを目の当たりにしようとしているんだ。
「……だからっ!!」
よし、その勢いだ。
言ってしまえ、山姥切国広。