第31章 沖田総司の脇差※三日月宗近R18夢
「三日月……」
三日月の名を呼ぶと、ずっと貼り付けていた作り笑顔を止めた。
そして、腕の裾をまくる。
「さっきの出陣で怪我したの……」
「……可哀想に。血が滲んでおるな」
三日月は、不器用に包帯が巻かれた腕を見ると、私の手を握りしめた。
大きくて、温かい手。
これが、年の功と言うやつなのだろうか。
その手は、全てを包み込んでくれるような温もりを持っていた。
だからだろうか。
心にしまって置きたかった言葉が、溢れてきそうになった。
「何故、帰還してすぐ手入れ部屋に行かなかった?」
「手入れ部屋に行きたいけど、私の他に短刀の子達が怪我しちゃったから、私は先には行けない。だって……」
言ってはいけない。
もう、何も口にしてはいけないと、俯いた。
けれど、そんな私の肩に三日月は手を置くと、俯いた私の顔を覗き込む。
眉根を寄せて、心配してくれているような表情。
温かい手で触れられて、そんな顔で見られたら、私。
「……わ、私……隊長だから。主に戦績報告しないといけないし、それに……」
駄目だ。
こんなこと、口にするつもりはなかったのに。
「こんな……っ隊長なのに怪我したって、主にも、誰にも知られたくないっ」
弱い刀だって、知られたら。
もう、出陣させて貰えないかもしれない。
そんな不安、誰にも言いたくなかったのに。
どうして言ってしまったのだろう。
三日月だから、かな。
「霧雨……おぬしが思っているようなこと、我らの主は思ってはいないよ」
「……本当に?」
「ああ、あの娘は確かに若いが、そのような薄情な心を持っておらぬよ。それに、少し戦績報告が遅れたとて、文句言うこともない。俺がいつもそうだからな」
それは、相手が三日月だから文句を言わないのでは。
そう思ったが、敢えて言うのは止めておいた。
確かに、よくよく考えてみれば、主が戦績報告の遅れで文句を言うようには思えない。
「それでは、手入れ部屋が空くまで、俺が傷の手当てをしてやろう」
そう言って、三日月は私の返事を待つことなく、私の手を引いて歩き出した。