第31章 沖田総司の脇差※三日月宗近R18夢
主がいる部屋はもう少し進んだところだ。
けど、今日はその少しの距離が果てしなく遠く感じる。
「…………っ」
原因は、これのせいだろう。
一歩、また一歩進むたびにズキンと体に痛みが走るのだ。
ずっと顔に貼りつけたままの作り笑顔も、この痛みのせいで崩れてしまいそうになる。
堀川には軽傷だと言ったけれど、本当は違う。
限りなく、重傷に近いほどの中傷。
重傷ではないから、軽傷だと言い張って隠したのだが。
じつは痛い。すっごく痛い。
けど、我慢。
手入れ部屋は二部屋だけ。
今日の出陣で負傷したのは、私以外で軽傷が三振り。
三振りとも短刀の子達で、練度も低い子ばかり。
そんな中、私から手入れしてもらうなんて、出来ない
私、隊長だし。
手入れ部屋が空くまでやること先にやって、待つしかない。
「はぁ……」
ため息をつき、そっと腕をまくってみる。
そこには、不器用に包帯が巻かれた腕。
やはり、じんわりと血が滲んでいた。
「この傷じゃあ、直るまでお風呂にはいれない……はぁぁぁ」
今度は大きくため息をつくと、腕を隠すように袖をもとにもどした。
「やや?そのような大きなため息をついて……何事か?」
不意に背後から話しかけられ、慌てて振り返る。
「可愛らしい女子が何故、そのようにため息をつくのだろうな」
声を掛けてきたのは、三日月宗近だった。
平安時代の刀工、三条宗近が打った刀で、天下五剣の中で最も美しいといわれる刀だ。
一度だけ同じ部隊になったことはあったけれど、こうして二振りだけで話すのは初めてかもしれない。