第29章 沖田総司の脇差 零章※へし切長谷部
長谷部と深く触れ合った後、彼は温かい湯で濡らした手拭いで、丁寧に私の体を清めてくれた。
彼の優しい手つきに見惚れていると、気付けば着物もしっかりと着せてくれていた。
脱がすのも早いけど、着せるのも早いなぁ。
そんなことをぼんやりと考えていた。
「ほら、これをやろう」
長谷部は私の袴の帯をきゅっと締め終ると、戸棚から何かを持ってきた。
差し出されたお皿に乗っているのは、丸くて、柔そうな、白い何か。
「……もち?」
「大福だ。今日のお八つ時に作ったものだ」
へえ、大福。
手に取ると、見た目通り柔らかい。
大福、もちとはどう違うのかな。
あ、そう言えば始めて何か食べるのかも。
おそるおそるそれを口にすると、口の中がびっくりした。
「お!美味しい!!」
なにこれ!なにこれ!?
中に何か入ってる、なにこれ!
「ちなみにそれは炊事当番の俺が作ったものだ」
「長谷部が作ったの!?すごい!」
「そのうち霧雨も、何らかの内番を任されるだろう。だが今はまず、ヒトの身に慣れろ」
そっかあ、これからは人間みたいに生活していくんだもんね。
私にも出来るかな。
ま、なんとかなるか。
とにかくこの大福、すごく美味しい。
また食べられるかな。
初めて口にした大福に感激している私に、長谷部は微笑んでいた。
そして、コホンと咳払いをすると、少し気まずそうな顔をする。
「それと霧雨、その……さっきのことだが……」
「……っ!」
どうしよう。
もしかしたら、長谷部は私に触れたことを後悔してるのかもしれない。