第29章 沖田総司の脇差 零章※へし切長谷部
主は懐から鈴を取り出すと、リンと鈴を鳴らした。
そして、隣にたつ近侍に声を掛ける。
「国重ってことは、長谷部と何か関係があるのかな?」
「さあな……けど、長谷部なら彼女の案内役として適任だろう」
主と山姥切国広は、誰か違う刀剣男士の話をし始めた。
長谷部って言ってたけど、誰だろう。
私と関係がある刀なのかな。
同じ新撰組にいた刀かな。
「主、この長谷部をお呼びですか?」
頭の中が疑問だらけになっていると、部屋の向こうから声がかけられた。
「長谷部、入って。お願いがあるの」
主がそう言うと、スッと障子が開き、背の高い男士が部屋に入ってきた。
誰だろう。
顔を見ても、全然わからないや。
「この長谷部、主の呼び出しを受け、ただ今馳せ参じました。それで、此度はどのようなご命令ですか?」
「長谷部、新しく来た子の案内をお願いしたいの。国重お源が打った一振り、霧雨よ。国重っていうから、何か繋がりがあったり……しない?」
鈍色の髪に、藤色の瞳。
意志の強そうな顔だが、それを表には出さない忠誠心も伺える。
何より、見目麗しい。
彼と目が合うと、ドキッと心臓が跳ねた気がした。
彼の顔、私の好みかもしれない。
そんなことを考えていると、その人はゆっくりと首を横に振った。
「すみません主、残念ながら私とは縁がないとお見受けします。ですが、主命とあれば私が霧雨の案内役を引き受けましょう」
「ありがとう長谷部、お願いね」
主は彼にそう言うと、私の方を見て、またにっこりと笑う。
「霧雨、彼はへし切長谷部。この本丸で三振り目に顕現した刀剣男士なの。何でも知っているし、すごく頼りになるから今日は彼に本丸のことを教わってね?」
どうやら彼、長谷部は主からすごい信頼されているみたいだ。
だからこその勝気な顔なのかな。
「霧雨です。宜しくお願いします」
思わず、口調が丁寧になっちゃった。
「長谷部と呼んでくれて構わない。来たばかりで不慣れなこともあるだろう。何でも俺に聞いてくれて構わない」
長谷部が一歩前に進んで私と並ぶと、彼はそっと私の肩に手を置いた。
わあ、背が高いな。
「さあ、まずは本丸内を案内がてらに他のものに紹介しよう」
「あっ、はい、お願いします」
長谷部に促されるまま、私と長谷部は主の部屋を後にした。
