第23章 憧れの先生※一期一振R18
一期先生は少しだけ驚いた顔をしたけれど、すぐに平然とした表情に戻って、小説に目を落としたまま何も言わない。
私を咎めることもなく。
それが何よりも、怖い。
けれど、私からも何も言えなかった。
「…………」
どうしよう。
先生、もしかして中身読んでる!?
挿絵も見ちゃった?
言い訳するべきか、逃げるべきか。
そもそも、先生だってどう怒っていいか悩むよね!
先生と私の間に、よくわからない沈黙が訪れていた。
「せ、先生……?」
沈黙に耐えきれず、恐る恐る一期先生に呼びかけると、先生はパタンと小説を閉じて、机の上に置いた。
「桜はこういうことに、興味があるのですか?」
興味があるかって。
答えづらい質問ですよね、それ。
興味あるかと聞かれれば、そりゃ興味あるけれど。
そんなこと正直、しかも憧れの先生相手に言えるわけがない。
「え、えっと……わからないです……」
今更だけど、それ私のじゃありませんとか言っても無駄だよね。
言葉を濁しながら俯くと、先生はため息をついてガタン、と音を立てて椅子から立ち上がる。
そして、何も言うこともなく、その場から立ち去ってしまった。
「……え」
何も、言わないんだ。
きっと相当呆れたに違いない。
怒られた方が、幾分もマシだったな。
「帰ろう……」
もう、ここにはいたくない。
そう思って鞄に問題集を仕舞おうとしていると、誰かがこちらにくる足音がした。
「…………え?」
足音の主は、一期先生だった。
なんで、戻ってきたんだろう。
戸惑っていると、先生は早足で私のところに歩いてきて、私のすぐ側に立った。
「桜、来なさい」
鞄に荷物をしまっていた手首を掴まれ、力強く引き寄せられる。
「せ、先生……?」
強引に立ち上がらされると、先生は私の手を掴んだまま離そうとはしない。
それどころか、手を強引に引かれ、図書室の奥へと連れ出されてしまった。
自習エリアも他に人はいなかったけれど、ここにも誰一人いない。
だって、下校時刻はとうに過ぎてしまったから。
ここにいるのは私と、一期先生だけ。