第12章 闇の豪邸
頬に触れる女の手を取り、離す。
「俺よりしゃべる奴は嫌いだが、人の話を聞かない奴はもっと嫌いだぜ」
警告。さっきから何度もしているのに。
女は言葉をわかっているのかいないのか、妖艶に微笑んだ。
「綺麗なのは好きよ」
そう言って、ダンテに顔を近づけ。
唇を僅かに開いて。
ダンテの唇に重ねる。
ダンテは無表情に正面を見つめ、動かない。
何も感じない。目障りだ。
どこを見るでもなく。何を思うでもなく。
女が再び唇を重ねて来た時も、わずかに眉を寄せただけだった。
女はダンテが拒まないのを見て、更に唇を重ねる。
何度も何度も唇を重ねて吸い。身体をしならせ腿を擦りつけ。
反応を示さないダンテから理性をなくそうとするように。
いくらやっても無駄だというのに。
わざと音を立てる女の息は荒く瞳は濡れてとろんとした。
こういう事に慣れているのだろう。口付けを重ねながらダンテの首筋を指が這い、大きく開いたコートの正面から中へと進む。
───しばらくして。
待っても待っても終わらない口付け。
やがて手はコートを脱がせてボトムのファスナーにまで伸び。
彼女がそれを下ろしかけた時、ダンテはぐいっと女を押した。
「もう十分だろう。とっとと帰りな」
「あら 駄目よ。何のためにここに連れて来たと思ってるの?」
「さあね」
離しても、また近づいてくる。
───いい加減にしろよ……
こっちは得体の知れない女に口付けをされ、うんざりしているというのに。
の誘いなら喜んで受けるが、こんな女からは受ける気がさらさらしない。
───やっぱりもう帰ろうか。
ここにいても体力と精神が削れるだけだ。それなら、すっぽかして別の仕事をした方がいい。
そう、ダンテが思った時だった。
───ドガァァァン! ガラガッシャン!!
盛大な物音が、建物中に響いた。
ダンテは動きを止め、剣と双銃をつかむと外へ飛び出す。
───まだ悪魔がいたってのか!?
そんなはずはない。全部片付けたはずだ。
少しでも女との時間を減らそうと、片付けた後もあちこち見て回ったのだから。