第11章 黒髪の誘い
リビングにいたバージルは、上から話し声がした気がして不審に思った。
この家には自分としかいないはず。が独り言でも言っているのだろうか。
の部屋に行ったが、ドアは閉まり中は静かで、別段変わった様子もない。
───ダンテがいなくてする事もなく、寝ているのだろうな…。
話し声がしたと思ったのは、寝言か何かだろう。
そう思ったバージルは、そっとドアから離れた。
まだ読みかけの本がある。そのままリビングに戻ろうとしたが。
───ライアとかいう奴の事でも調べるか…
自室へ向かった。
まだライアの事はほとんどわかっていないのだ。それに、次はいつ来るのかもわからない。
早く調べ上げなければ。
自室に着いたバージルは、ドアに張り紙がしてあるのに気付いた。
「………?」
か?
字面を見てそう思いドアの前に立ち、何気なく紙に視線を走らせ。
一瞬、言葉がわからなくなった。
何だ? は何を言っている?
何か、やたらと不安で嫌な文字が目に入るような…。
もう一度目を通して。
「!!?」
仰天する。
紙が破けるのも構わずにビッとひったくり、何度も何度も目を通す。
しかしいくら読み返しても、書かれている事は変わらない。
そこには───
『ちょっと今夜、ライアと寝てきます。
ライア、本当は悪い人じゃないの。事情は帰ったらちゃんと教えるので、今は許してください。
お夕飯は昨日の残りが結構あるので、それを食べてくださいね。
明日の朝に帰ります。突然でごめんなさい。
』
と、丁寧な字で書かれてあった。
「───……」
くらり。
視界が暗転する。
混乱と驚きで頭が回らない。
頭の中には、『ライア』と『今夜寝る』の二つだけ。最悪の二つだ。