第11章 黒髪の誘い
───愛しい…とは、こういう事を言うのだろうか…。
最初は、一緒に夜を過ごしてくれればそれでいいと思っていた。
だが、今は違う。わずかに「ずっといたい」という気持ちがある。
それはのそばにいるにつれて、ほんのりと色をおびてきていた。
まるで華開くように、ゆっくりと。
やがてはことりとペンを置いた。
「───よし、できた! じゃあこれは…リビングに置けば…」
「起こしてしまうかもしれません。部屋のドアにでも」
再び部屋を出ようとする彼女にすかさずそう言うライア。
バージルが本当に寝ているかは分からないのだ。
彼は直接この部屋に来た。部屋の外は全く見ていない。
そんな状態で、リビングになんか行かせられない。
はその素早さにきょとんとして、ぷっと笑った。
「どうしたの、そんなに急いで」
「あ…いえ…」
「心配しなくても一緒に行くよ。急がなくてもいいのに。…じゃあこれ、ドアに貼るね」
ぱたぱたと部屋を出る。一応ライアも着いて行く。
もしバージルに気付かれたら、すぐに移動できるように。
は、手紙をテープでドアに張り付けた。
「お荷物等、持って行くものはございませんか」
その小さな背中にライアはそっと尋ねる。
「うん、大丈夫。寝るだけでしょ?」
「───…はい。では、もう移動しても?」
「いいよ。緊張する…」
ぴしっと姿勢を正す。遠足にでも行くような、期待と緊張。
魔法で移動するなんてもちろん初めてだ。どんな感じがするのだろう。
ライアはその様子にわずかに表情をなごませると、の手を取った。
「……?」
「離れないように、です」
ライアは言い、すっと目を閉じる。
ふわりと金色の風が舞う。
ざわりと空気が揺れて。
ひらりとライアのローブが翻り。
次の瞬間にはもう、二人の姿は掻き消えていた。