第11章 黒髪の誘い
ライアに何だか嫌な予感が走った。
複雑そうな顔をしたが、やがてうなずく。
「ありがとうございます。これで私は救われます」
「力になれるなら、私も嬉しい。いつ行けばいいの?」
「できれば、今すぐにでも」
は少し考えた。
「ライアの家まで遠い?」
「遠いですが、ご心配には及びません。私の魔術を使えば一瞬で着きます」
「へぇ…すごい」
便利そうだと関心する。
移動が楽だなんて、うらやましい限りだ。
「あっじゃあ、ちょっとバージルに説明してこよう! 来て来て」
「………えっ」
ぱっと顔を輝かせたにいきないぐいぐい腕を引っ張られ、ライアは戸惑った。
説明してくる。それは、今まで言った事を他の誰かに言うというわけで。
これからどうするかも言うわけで。
───さすがにそれはまずいんじゃ…
浮気してくる、と堂々と言うようなものだ。大変まずい。
も彼自身も、どうなるか知った事じゃない。
無駄な争いをしてバージルとやらに諭されて、の気が変わったら大変だ。せっかく頷いてくれたのに。
ライアは慌てて止めた。
「あの…っ! さ 先程見かけたのですが、彼はソファで寝ていました。置き手紙の方がいいのでは…」
でたらめを必死にまくしたてる。
言ってから、様子を見に行くと言わないだろうかとか素直に信じてくれるだろうかとひやりとしたが、しかし。
は別段疑った風でもなく言った。
「あ、そう? じゃあ起こすのも悪いかな…。うん、じゃあ手紙書くから待ってて」
「はい…」
ライアはほっと息をつく。素直な方でよかった。
簡単にうなずく事といいバージルに知らせようとする事といい、何だかが勘違いをしているような気がしてならなかったが……考えないようにした。
考えたら終わりだ。
が部屋を出ようとした足を戻し、メモ帳とペンを取り出してカリカリと手紙を書く姿を眺めた。