第11章 黒髪の誘い
に緊張が走る。まさか見られていたなんて。
そんなを目の前に、彼は続ける。
「あの瞬間に居合わせて、本当に良かった。私はその時、もうあなたしかいないと感じました」
「………」
話が突飛すぎてついていけない。は必死に頭を回転させた。
───何…私が別の世界から来たから、何か特別な力を持ってるとか思ってるの?
冗談ではない。とんだ勘違いだ。
「で…でも! あなたが結婚しなくても、他の家族の方が何とか…」
「いません」
「え」
「いないのです。魔術師の血を引く者は、もう私だけです。両親も、兄弟も死にました」
は呆然とした。
無表情に、淡々と話すライアを見つめる。
「な… なん、で…」
問いかけてみるが。少しだけ、怖かった。
ライアは何も言わない。表情で、言いたくない事なのだとわかった。
そしてちくりと違和感。しかしそれに疑問を持つ前に、ライアは重たく口を開く。
「魔術師の力を持っているといえど、体はただの人間です。長くはもたない。いずれ体が耐えられなくなり、消滅します。それを防ぐために、私たちは一緒になってくれる人を探すのです。
一緒にいれば、消滅は先延ばしされる。寝所を共にすれば力は相手方に半分継がれ、消滅は完全に免れます」
約束された死。力の代償の呪い。
生活する上で一番近くにあり、常に気を配り怯えなくてはならず。
それはどんなに辛いだろう。いつ自分が終わるのかを思うなんて、どんなに哀しい事だろう。
───だから…だから、必死に「来い」って……
からはもう、警戒の色はなくなっていた。
ライアへの気持ちが変わる。きっと彼は不安だった。
相手が常人ではいけないのだ。
必死にパートナーを探し続けてきて。
見つからなければ自分が死ぬ。その不安に潰されそうになりながら、今まで。
はライアに近寄り、頬に触れた。
暖かい。
しかし、その金の瞳は何て冷たいのだろう。
こんなに冷たくなるまで。今まで一体、どんな気持ちで…