第11章 黒髪の誘い
落胆とそれ以上の驚愕の色を見せるの口を、ライアのしなやかな手が優しく覆った。
「お静かに。危害を加えるつもりはありません」
だから大人しくしてほしい、と言う視線に、はためらう。
言われてすぐに信じられるはずはない。彼はダンテを傷つけたのだ。
しかしその瞳は真っ直ぐで。歪みを知らないようで。
はうなずいた。ライアはどうしても、自分を傷つけるような敵には見えなかった。
それを見てとると、彼はそっと手を離す。
「何か用ですか?」
警戒しながらは言った。
ライアは安心させるようにから一歩退くと、ゆっくりと形のいい唇を開く。
「お迎えに上がりました」
途端には顔をしかめた。
やはり諦めていなかったのだ。
「行きません」
「駄目です。あなたは来るしかない」
「行かない」
「来てください」
───強情な人!
いくら言ってもきかない。
このままでは事態は変わらない。
「会った時からずっと来いって言ってるけど、何なの? あなたは私の事知ってるみたいだけど、私はあなたの事何も知らない」
姿勢を正し、ライアに尋ねる。
傷つけないと言った彼の言葉を信じたいが、怒るような事になれば何をするかわからない。刺激しないように。
するとライアは何でもないように言った。
「私は生涯を共にしてくれる嫁を探しているのです」
一瞬、時が止まる。
「………え?」
は思わず聞き返した。
が、ライアは構わず更に言う。
「私の家系は、この世界にはない力を持っている魔術師の血を引いています。その家系を絶やさないためには、できるだけ力のある人と一緒にならなければならない」
───魔術師…?
魔法とか使える人の事だろうか。
ファンタジーの中の話みたいだ。いまいち実感がわかない。
「だからって何で私…」
「あなたがあの日、この世界に来るのを見ていたからです」
「……!」