第10章 依頼人
「泊まっていった方がいいんじゃないですか?」
不意に不思議そうなの声。
ダンテはぎょっとしてを見た。
「おっまえ……何言って」
「だって泊まるのをすすめるくらいややこしい悪魔なら、それは泊まっていった方が安全じゃないですか」
「……………」
───ああ。
ダンテは唐突に、ものすごく納得した。
───、分かってねえんだな…仕事無しで女と一晩泊まるって事がどういう事なのか。
この依頼、おそらくダンテと一晩過ごすという事が目的で、悪魔退治は建前だ。いや、悪魔がいるというのも嘘かもしれない。
この女は、あちこちでそういう事をしているのだろう。
雰囲気がそれを物語っている。
ダンテはしばらく考え込み、依頼人を睨む。
彼女もそれを真っ直ぐに受け止め自信たっぷりに微笑んでいた。
まるで、断る事は許さない、とでも言うように。
ダンテはに言う。
「泊まる必要なんかねえよ。俺が悪魔退治に1日まるまる費やした事があったか?」
「ない…ですけど」
「じゃあ泊まらなくてもいいだろ?」
「…でも…報酬、2倍でしょ?」
「………」
それを言われると詰まる。
今の報酬金額も相当なものなのに、泊まるだけでこれの2倍なのだ。
しかしだからといって、こんな女と一晩泊まるのなんて嫌だ。
しか見えない今、他の女となんて考えるだけで嫌気とがする。
───どうしたもんかねぇ…
まあ、依頼人の誘いなんて断れば済む話。
だが泊まる意味を知った時、きっとは悲しむだろう。
そんなのは嫌だ。
迷うダンテに、は更に言う。
「行ってきてください。一日だけですし。私、ダンテを信じてますから」
───そうは言ったってなぁ…。にそう言われると、キッツイな。
複雑な感情を抱えてダンテがを見て。
ダンテは目を見張った。
は笑っていた。
笑っているのに、瞳は泣きそうなくらい寂しくて。
思わず手を伸ばしそうになり、ダンテは気づく。