第10章 依頼人
「あのクソ兄貴…余計な真似してくれるぜ」
鬱陶しそうにそう言うと、ふと振り返った。
を見てにやっと笑う。
「忘れちゃいねえよな? 昨日の約束」
「? …あ」
「思い出したか? やってくれよ」
日の事が思い出され、は顔が熱くなった。
そうだ。ダンテは「おはようのキス」を「明日もよろしく」とか言っていた。
「…………」
───もう!
無言でダンテに近付く。ダンテは動かない。じっと見つめる。
ダンテは、大人しく言うことを聞いたに多少なりとも驚いていた。いつもならもっと嫌がるのに。
に手を添えられ、じっと見つめられて、ダンテの鼓動は高鳴る。
───見てると吸い込まれそうだぜ…
そしてその瞳は黒く綺麗で、見ずにはいられない。
「……あの…ダンテ?」
「ん?」
ぼーっとの目を見ながら答えるダンテ。
は恥ずかしそうに言った。
「ちょっと…しゃがんでもらえませんか? 届かない…」
「ああ… 悪い」
ダンテは少しだけ身体を曲げた。
そしてが背伸びをして、顔を近づけてくる。
───やば…
滅多にないからのキス。ダンテの心は更に高鳴った。
近づく瞳に心は拐われ、夢に浸っているよう。
そして。
の小さな唇がダンテの唇に触れ、ちゅ…と軽い音を立てた。
一瞬の温かさ。しかしそれは、すぐに冷えて空気に奪われる。
今日は唇にできた。は少し嬉しくなった。
ダンテにしてみればもどかしいくらいの口付けだが、昨日の頬と比べれば大した進歩だ。
しかしそれ以上はできないらしく、戸惑ったようにはうつむくと、身体を離そうとした。