第10章 依頼人
「すみませーん」
不意に入口のドアが開く音がして、女の人の声がリビングに響いた。
「はーい」
何だろうとが出ていくと、そこにはすらりとした金髪の美女が。
彼女はを見ると、長いまつげに縁取られた目を見張った。わずかに、不思議そうに首を傾ける。
「あら。あなたが悪魔退治の人?」
「あっいえ! 違います! 少々お待ちくださいね」
依頼人だ。は慌てて否定した。
立たせたままでは失礼だと、は彼女をソファに座らせる。
「ありがと」
と女は言い、座った。
はぱたぱたと走り、起きて自室にいるバージルにお客だと知らせた。すると。
「ダンテも起こしてくれ。ここの店主は一応あいつだ」
は目を見張ってバージルを見つめた。
───そうだったんだ…。バージルの方がお兄さんだししっかりしてるから、バージルが店主なのかと思ってた…
意外な気持ちになりながらも、言われた通りダンテの部屋に行く。
まだ寝ているのであろう室内は静かだった。ドアを叩く。
「ダンテ、仕事ですよ! 起きてくださいー」
もそ、と空気が動いた。
そのままわさわさと衣擦れの音。それからあくびをする声。
しばらくして、がちゃりと部屋のドアが開いた。
一度呼んだだけで起きて来るとは思わなくて、は驚いて固まってしまった。
その目の前でダンテは眠たそうに目をこすり、言う。
「バージルに出てもらえよ」
寝起きのかすれた低い声。
は我に返って、慌てて言った。
「言ったんですけど、バージルがここの店主はダンテだからダンテも起こせって」
するとダンテは髪をわしわしかいて舌打ちをし、やはり大人しく赤いコートを手にひっかけた。
仕事の事になると、嫌々ながらもきちんと対処するらしい。