第1章 終わらない帰り道
「─────っっ!!!」
「んだ?」
突然耳に入ってきた女の悲鳴に、ダンテは顔を上げた。
窓の外を睨み付け、気配を探る。
近い。
ダンテは無言で立ち上がった。
食べかけだったピザを口に押し込み、ズボンで油をぬぐって。
それにバージルが眉をひそめたが、気付かないふり。
真っ赤なコートを無造作にひったくると、するりと腕を通した。
次いで双銃と剣を手に取り、軽く点検。
女の悲鳴は、すなわち異変や身の危険、つまり悪魔の登場を意味する。
久しく感じていなかった手応えを思い、ダンテの口角が吊り上がった。
くるりと身をひるがえし、双銃は背中のホルスターに、剣は肩に担ぐ。
どうせすぐに使うだろう。
「行ってくるぜ」
「ああ」
「そのピザ、食ったら半殺しな」
「誰が食べるものか」
兄の呆れたような怒ったような声にくっと笑うと、ダンテは大股で入口の扉に向かう。
扉を蹴り開けた。
「さあて、イカれたパーティーの始まりだ!」
外の冷えた空気の中で、ダンテは首をめぐらせる。
悪魔が出た場所は、事務所を出て左に行った所だった。
悪魔独特の鳴き声に視線を向けると、丁度一人の女が悪魔から逃げてこっちへ向かっていた。
ダンテと目が合い、すがるように駆けてくる。
───妙な服着た女だな
ダンテは走ってくる女を見ながら思った。
おかしくはないものの、見慣れない姿に違和感を感じる。ここの人間ではないと一目でわかった。
───ああ でも……漆黒の艶やかな髪と、うるんだ瞳が綺麗だ…
顔の造作は美人という程でもなかったが、どこか惹かれる顔立ちだった。黒髪に黒目はあまり見た事がないからかもしれない。
泣きそうな顔は見てるこっちが思わず助けたくなるほどに必死で。
暗い建物に暗い髪が溶け込み、えもいわれぬ雰囲気をただよわせていた。
笑ったらかわいいんだろうなと考える。
「…っ たっ助けてください…!!」
女の声で、思わず考え込んでいたダンテははっと我に返った。
ヤバいヤバい、今は悪魔退治に専念しねーと…
走り寄って来た女の腕を掴んで自分の後ろに回すと、愛用の剣を悪魔に向けて突き出した。
低級じゃねえか。ちょろいな。
にやりと笑う。