第1章 終わらない帰り道
────バシャン!!
雨上がりのスラム街。その一角に建つ建物。
たった今シャワーを浴びて来たダンテは、シャワー室のドアが閉まる音に紛れて何か別の音を聞いた気がした。
少しその音の正体を考え首を捻る。
「今何か音したか?」
ソファで黙々と本を読んでいる、兄のバージルに聞いてみた。
「知らん」
本から顔も上げずに答える兄。
聞こえたような気がしただけだったので、ダンテもそれ以上は気にしなかった。
髪から滴をしたたらせながら、バージルのいるソファへ向かう。
おおかた、どっかの誰かがすっ転んで水溜まりに突っ込んだたんだろうさ。
そう思いながら。
───────────
「っ…たー…」
が落ちたところは丁度水溜まりの上だった。
一瞬にして服が濡れる。
「何で水溜まりが…今日雨降ってないのにー…」
愚痴っぽく呟いて顔を上げたは次の瞬間…
固まった。
見慣れない風景。見慣れない場所。
薄暗い、街。
「どこ…ここ」
今まで知らなかった道から出たのだから、知らない場所に出るのは当たり前だった。
覚悟していなかったわけではないし、むしろ期待が胸をふくらませていた。
しかし、ここは…この場所は、道を一本外れたとかそんなのんきな感じではない。
見た事のない、独特の雰囲気を醸しだしている建物。
それはに、容赦のない違和感を感じさせた。
そう、まるで外国の建物の中に取り残されたかのような。
いつも見ているものと違う。それだけで、普通は心踊るものだが。
たった一人の今ではそれは不安材料になるしかなく、妙なよそよそしさにはじり…と後ずさった。
そして、本能でわかった。
これは日本の建物じゃない。
日本の建物はこんなに暗くて薄汚れてない。
壊れた家なんて都会では見た事もないし、瓦礫が道に散乱してもいない。
ここは、間違いなく日本ではなかった。