第5章 風呂場の愛
「………」
はしばらく黙っていた。
顔が見えないので、驚いているのか返事に困っているのかわからなかったが、ダンテはを抱きしめ続けた。
想いが届くよう、祈りながら。
しばらく待ち続けたダンテの胸に、ぽた…と熱い雫が落ちた。
の髪からたれた雫にしては温かい。
あまりに長い沈黙の後だったので、ダンテはそっと身体を離してみた。
そして仰天する。
「なっ…!?」
は泣いていた。
呆然とした表情のの目から、涙がとめどなくあふれている。
どうしたらいいのかわからなくて、ダンテはらしくもなく動揺して。
それを見たの顔が不意にくしゃっと歪んだかと思うと、バスタオルをぐいっと引っ張り自分の顔を隠す。
そしてその時になって今更、ダンテはどうしようもなく怖くなった。
───勢いで言っちまった!
泣くほど嫌だったのか? 家を出ていかれる?
慌てるダンテの目の前で、は。
「…みたい……」
かぼそい声。バスタオルにくぐもってよく聞こえない。
ようやく聞こえた声に、ダンテは慌てて聞き返した。
「何だ? もう一回…」
「……嬉しいみたいです、私」
「……え…それって…」
恥ずかしそうに、は目だけをバスタオルから出した。
「嬉しいんです。私なんかでいいんなら、側に…」
みなまで聞かなかった。
ダンテは再び、を強く抱き締めていた。