第4章 夕食
本を読んでいたバージルは、ふとドアがノックされる音を聞いた。
ダンテかと思ったが、ブーツの重い音がしない。そもそもノックすらしない。
部屋のドアを開けてやると、がいた。
視線がぶつかり、戸惑ったように慌てる彼女。
「あ ごめんなさい。あの…夕食ができたので…」
手が、まるで怖いのを我慢するように握られていた。
あまり変わらない自分の表情。怖がらせてしまったのだろうか。
妙にそれがうらめしくなった。
「…あぁ。今行く」
一旦デスクに戻り、本にしおりを挟んでを閉じる。
ダンテもキッチンにいるらしく、遠くから何かをぶちまけたような音と声がした。
───夕食の準備を手伝ったのか…
今まで嫌がって意地でも手伝わなかったあいつが。
少し腹が立つ。
キッチンに入ると、ダンテがもう椅子に座って待っていた。
はスープをよそいにキッチンへ戻る。
質素ではあるが、美味しそうな料理の数々。少ない材料でよくできたと、素直に感心せざるを得ない。
バージル自身、毎度毎度の食料の少なさに困っているというのに。
バージルがダンテの隣に座り、しばらくしても2人の向かいに着く。
彼女の椅子はダンテがガラクタの中から一番綺麗なのを引っ張り出してきたもので、丁寧に拭いてあった。
早速食べようとしたダンテとバージルはふと、が行儀よく手を合わせて「いただきます」と言うのを見て瞬いた。
「何だ? 今の」
食べ始めたダンテが尋ねる。
はちょっと驚いた顔をした。
「こっちにはない? 食べ物に感謝を込めるあいさつみたいなもの」
「聞いた事ねーな。バージルは?」
「ない」
「そうなんだ…。あのね、私達にとって食事は欠かせないものじゃない? だから私達の栄養になってくれる食べ物のために、命をありがとうって感謝を込めて、あいさつするの。食べ終わったらごちそうさま、って」
「へえ…」
「良い心がけだ」
二人は感心しているようだった。
ダンテは素直に驚いていて、バージルは同意するようにうなずいている。
そうか、こっちにはそういった挨拶がないのか…。
文化の違いだろうかと思ったが、辞める気にはなれなかった。元の世界で自分が生きていた証のような気がして、そっと胸にしまう。