第4章 夕食
ぴちゃりとした水音。
手に、ダンテの熱い息遣いを感じる。
暖かくうごめく舌を感じる。
柔らかい唇を感じる。
いくらダンテの肩を押しても、彼はびくともしない。手を振りほどいてしまえばいいのにそれも出来ない。
はたまらなくなった。
「や…ぁ ダンっ…」
泣きそうな声。
いつの間にか夢中で舌を這わせていたダンテがちらりとを見ると、真っ赤になって目がうるんでいた。
このまま続けると本当に泣きそうだ。
それはご免こうむりたい。
ダンテはこのまま続けたい欲情を必死に抑え、最後に名残惜しそうに手首をぺろっと舐めると口を離した。
銀糸が気持ちを表すように跡を引き、が慌てて手をかばう。
「………っ」
が恥ずかしさで真っ赤になっているのを見て、思わずダンテは吹き出した。
「悪いな。ちょっといたずらしすぎた」
「…もうっ。夕食抜きにしますよ!」
「それは勘弁。俺だっての手料理食べたいんだぜ? それにほら。血は止まっただろ」
そう言われて見れば確かに、血はもう止まっていた。
「だから、な?許してくれよ」
の頭にぽんっと手をのせる。
は少しの間ふてくされていたが、やがてダンテと目を合わせた。
「…じゃあそのお皿しまってくれますか?」
そうしたら許してあげます、と呟く。
その仕草が可愛くて思わず抱きしめそうになったが、すんでの所で踏みとどまるダンテ。
「恩にきるぜ」
笑いながら素直に皿をしまう。
はまだ顔が赤かったが怒ってはいないらしく、ありがとうございますと微笑んだ。
――心臓、ばくばくする…。
ダンテに背中を向けて、怪我をした手をきゅっと握る。
舌の柔らかさと熱が纏わりついて消えてくれない。
あぁ、もう。なんてことしてくれるの。