第3章 洋服を買いに
───泣いた理由…何だ?
一瞬考えたが、すぐに予想はついた。
おそらくの世界の事を思って泣いたのだろう。
───なら、もう泣かせねぇぞ。
そう、強く思う。
こっちの世界でに悲しい思いはさせない。
口でははっきりと明言しないものの、はもう元の世界には帰れないだろう。
別世界への入口が現れたとしても、必ずしもの世界に繋がっているとは考えにくい。
それにもし入口が繋がっていたとしても、行かせない。
行きたくないと思わせてやる。
勝手なエゴだと思ったが、本心でそう思ったのも事実だった。
「…あの それで、服は見つかったんですか?」
一息ついて黙り込む二人に、待ちきれないという風には言った。
物思いにふけっていたダンテははっと思い出す。
「おっと。忘れるとこだった。…ほら、これだ」
ダンテは袋を差し出した。
その袋を見て、の顔がぱっと輝いた。
「早速着替えてきな」
「わぁ…! はい、じゃあちょっと行ってきます!」
紙袋を大事そうに抱えてぺこりと一礼し、急いで部屋に入る。
それを見届けると、ダンテは息をついた。
バージルも無言。
さっきダンテが考えていた事と同じ事を思っているのだろう。
表情は深刻で、じっと前を見つめている。
「帰す気、ないんだろ?」
一応言ってみた。
「残念ながらな」
即答。
思った通りの返事に、ダンテは肩をすくめる。
そう、残念なことに、彼女はもう帰れない。帰りたくないと思ってしまうから。
ソファに深く身を沈め、紅茶をもう一口飲んだ。
───全く、不思議な奴だぜ。
初めて会ってから早数時間。たった数時間。
その間に、こんなにもの事を気にかけているのだ。
───一目惚れ…ってやつか?
今までと、好きになる速度が明らかに違う。
徒歩とスペースシャトルくらい違う。
悪くないね。
ダンテは微笑んだ。
しばらくして。
「着替えましたー…」
それまでずっとリビングに満ちていた静寂は、部屋に入った時とは打って変わっておずおずとしたの声で破られた。