第3章 洋服を買いに
するとその時、事務所の電話がけたたましく鳴った。
びくりと身を震わせる。
一人しかいないこの事務所に、電話のベルはやけに大きく響いた。
───ジリリリリリ…ン
止まらない。
───ジリリリリリ…ン
どうしよう。取るべき?
でも何て言えば…
───ジリリリリリ…ン
ここは悪魔退治の店。もしお客だったら、取らないと失礼になる。
は悩んだ末、おそるおそる黒い受話器を取った。
「………も、もしもし…」
『お!やっと出た』
脳天気な明るい声が耳に響いた。
「…ダンテ?」
『おー。今服見てんだけどよ、スカートとズボンどっちがいい?』
「え……」
驚いて言葉に詰まる。
ダンテからの電話のおかげで、涙はぴたりと止まっていた。安心感がかわりに浮かぶ。
そうだ。私は一人じゃない。
「うーん…動きやすいのがいいなあ」
なるべく泣いていたとわからないよう、明るい声を出す。
『動きやすいのねぇ…じゃあズボンか? いやでもちょっと待てよ…』
気付いた様子はない。
よかった。せっかくお世話になってるのに、これ以上心配も迷惑もかけたくない。
受話器越しのダンテの声が遠のいた。どうやら側にいるバージルと相談しているようだ。
───ちゃんと選んでくれてるんだ…
嬉しくなって思わず笑顔になる。
どんな服選んでくるんだろう。
男の人に服を選んでもらうなんて事、そうそうないよね。
やがて、遠くにいたダンテの声が聞こえた。
『わかった! ありがとな。もうすぐ帰るから』
「うん。気をつけて」
『わかってる』
ガチャ、と電話が切れる。
今服屋であの二人が買い物をしているかと思うと、少しおかしかった。
きっとかなり目立っているのだろう。
あんな容姿のかっこいい人が二人もいるのだから。
「ふふ…」
涙はもう止まった。
少しでも、泣いた事で心が軽くなっているのがわかる。
───顔洗って、気持ちすっきりさせよう。
こちらに来た事についてあまり深く考えても無意味な気がした。理由もわからなければ、どうしようもないのだから。
それよりも今は、二人が帰ってくるのが楽しみだった。