第23章 帰依
の近くに寄る。ダンテが嫌そうな顔をしたが、今はそんな事をしている場合ではない。
「これは私が家を出る前様に差し上げたものだ」
「なっ…」
ころりと投げられる爆弾。ダンテは目を見開く。
「何してんだよてめえ! 手は出さないと誓ったはずだろうが!」
信じられない。まさか指輪をあげていたなんて。
ダンテは拳をふるう。
しかしそれは、力なくライアの肩を叩いただけだった。
叫んで目眩がする。
「今はそんな事をしている場合ではない。急がないと手遅れだ」
「何のだよ!」
「この指輪は私の家に伝わる秘宝だ。赤い石は魔術の結晶。人の血を流し幾重にも研究を重ねたかつての魔術者達は、空間脱出の道具を創る事に成功したという」
「……?」
「持ち主が望む空間に、何の代償もなく行ける。たとえそれが魔術師でなくとも」
「それが何だよ」
「まだわからないか。様が元の世界に戻ってしまうという事だ」
ざぁっと。
ノイズが消えた。
風が凪いだ。
鼓動が身体中に響き渡る。
ライアの言葉を理解しようと脳は働き
理解しまいと身体は動かず。
が元の世界に戻る?
が
いなくなる
「…嘘、だろ…」
「嘘であると信じたい。実際魔術師内でも信じる者はほとんどいなかった」
空間を移動するのではない。そこから抜けるのだ。
それほど誰もが夢見た事はなかったし、それほど誰もが冗談じゃないと思う事はなかった。
「この石は持ち主の思いを受けて胎動し陽の光を浴びて発動する。もう近いうちに夜明けだろう」
色がついていく空。
それは。
言い伝えが本当ならば、はあと数十分しかここにいられないという事で。
追い討ちをかけるように、の身体は軽くなり。
「…そ…だろ……嘘だろ…!」
抱きしめる。まだ暖かい身体。
目を閉じたまま動かない。