第21章 手招き
しかしその戸惑いは、ライアを見た途端一掃される。
怒りがなくなる程、気の毒なくらいにライアはショックを受けていた。
自分の身体も見ていられないというように顔を背け、真っ青になっている。
そして女になったライアは全く違和感がなく、それもダンテを驚かせていた。
もともと女顔だったライアだ。むしろしっくりくると言ってもいい。
ただ、記憶はもとのままなはず。
───気持ちは男なのに身体は女かよ…。
悪夢だ。全く、気の毒な事をしてしまった。
そしてそんな渦中のライアはふと気付く。
自分は生きている。なら、背中の紋様は…魔力はどうなったのだろうか?
感じる限りでは、いつも感じていた背中の圧迫感と違和感は綺麗に失せているようだった。
初めて感じる背中の軽さ。慣れていたライアには、こころもとなく。
「私の力は…魔力はどうなった…?」
ぼんやり呟くと、がハッとした。
そうだ。その魔力のせいで、ライアはこんな悲痛な決断をしてしまった。
それが断たれなければ意味がない。
バージルは少し考えると、ダンテと同じように上体を起こした。
その動作はダンテよりはしっかりしている。
「一度死んだ事でなくなっただろう。いくら戻すといっても魔力までは無理だ。今あるのは、俺達から流れ込んだほんの少しの悪魔の力だけだろうな」
「なくなった…?」
「ああ。残念だが」
残念なものか。
ライアは信じられない気持ちで、するりと背中に触れてみた。
背中はひんやりと冷たい。
一番望んでいた事が、こんな形で。
悪魔によって叶えられた。
死んだ事は無意味ではなかったのだ。
自由。
もう自由。
魔力に怯える事も威圧に脅える事も自分に負ける事も他人に敗ける事もない。
自由。
「…………」