第20章 藍空
しかし。
傷口が塞がりかけて、あと少しだと安心したダンテとバージルは、やがて焦ったように顔を見合わせた。
塞げない。
傷が完全に塞げない。
早く塞がなければ。時間が経てば手遅れになるのに。
なぜ塞げないのかと思い考える間にも、時は無常に無慈悲に進んでいき。
それが更に二人を焦らせ。
焦りか動転か動揺か、落ち着きをなくしてきている頭ではわかる答えもわからずじまい。
「くそっ…何でだ! 何で塞がらない!」
「半魔の血では無理なのか? それとも何か見落として…」
もう、血はギリギリまで出してしまった。
身体を起こしている事も苦しくて、痛みでも感じていないと意識はすぐになくなるだろう。
二人は必死に頭をめぐらせる。
あやふやな記憶がもどかしくてたまらない。早くしないと、本当に手遅れになる。
ダンテは腕の中にいるをちらりと見た。
痛々しいくらいに蒼白な身体は震えていて、冷たい。
どこも見ていないようなうつろな視線。
何を考えているのだろう。
考える事すら、放棄してしまったのか。
ダンテは強く唇を噛み締めた。
どうしたらいい。
どうしたらいい。
記憶に残っているのは…。
もしかしたら、自分の認識が間違っているのか。
そう思い、ダンテはバージルに問う。
「死んだ人間に悪魔の血を飲ませるって俺は覚えてるんだけど、何か違うとこあるか?」
「貴様にしては珍しく記憶力がいいな。俺も同じだ」
「なら、別に見落としたとこはねぇだろ。ならなんで…」
やはり、この半分になってしまった血筋のせいか。
それしか考えつかない。
ダンテは、この時程半魔の身体を恨んだ事はなかった。
どうして半分しかない。中途半端なんだ。
救う事もできない。
の力になってやる事も。
ああ、もう。
俺は本当に役立たずだな。
嫌になるぜ。
今回ばかりは。
ごめんな。
しかし。
しかし、半ば諦めてライアの開かれない目を見ていたダンテの脳裏に。
ふっとかすめた疑問。
───死んだ人間…?