第20章 藍空
「─── !!」
突然弾かれたように、ダンテは顔を上げた。
そうだ。これだ。
傷が塞がらない理由。
慌ててライアに身体を寄せ、重く感覚の失せてきている手を動かす。
まだ間に合うだろうか。
どうか。
どうか。
間に合ってくれ…!
悔しそうに顔を歪めているバージルを横目に。
ダンテは背中から素早く銃を取り出し、ライアの心臓に突きつけて。
迷う事なく引金を引いた。
「なっ……」
銃声があたりに響き渡り、その余韻が消えてから更にたっぷりと間を置いて。
バージルはようやく声を上げ、信じられないという顔をしてダンテを見た。
ダンテは発砲の反動で飛ばされ、力が抜けたように地面にへたり込んでライアをじっと見つめる。
「な…何をしている貴様! 血迷ったか。蘇生させようとしている奴に弾丸を打ち込むなど…!」
「死んでなかったんだ」
声は小さいものの、言葉だけはやけにしっかりと響いた。
「……何…?」
眉根を寄せたバージルに、ダンテは更に加える。
「ライアはまだ、死んでなかった。しぶとい奴だな。首を斬られても少しの間は生きているみたいに、魔術の力のせいか完全には死んでなかったんだ」
「…だが、あれは誰が見たって即死だったぞ」
「そこらへんは知らねーよ。ただ、死にかけだったけど死んでなかったから傷が完全に塞がらなかった。これで筋は通る」
「………」
だから。
死んでいなかったから、銃で心臓を撃ち抜いてライアを殺したと?
バージルは信じられなかった。
そんな事があるものか。
確かにライアは、誰が見たって即死だったのに。
まさか。
しかし、塞がらなかった傷がなくなったライアの身体が、ダンテの言い分が正しい事を物語っていた。
力が抜ける。
ダンテはついに地面に身体を倒した。
空は今度は藍色。
陽はいつの間にか、落ちきってしまっていた。