第19章 闇
───着いた。
ライアは、広く眼前に澄み渡る海を眺めた。
誘われるようにやってきた場所。ここに海があるなんて知らなかった。
ただ漠然と、還る場所だと。
ただいま、と。
言いたくなって。
コンクリートの縁に近づき、そろそろ陽が落ちようといている空をまぶしそうに見つめる。
空をゆっくり見たのは初めてだった。
振り返り、港の様子を伺う。万が一にも人がいてもらっては困るのだ。
いつから置かれているのかわからない投網やプラスチックの箱。
それが縦横無人に散らばっていて、動かされた気配はない。
人の気配も。
それでいい。
ライアはようやく安心して気を緩め、息をついた。
そして身を震わせる。
風が冷たい。
そういえばローブを忘れて来たなと、今頃になってようやく思い出した。
笑う。
全く、こんな瀬戸際に寒いも何もないだろう。
最期なのだ。風くらい、感じてもいい。
緊張を解いた事で一気に押し寄せる嘔吐感。
息を詰め、口を覆う。
膝が崩れかけたが何とか持ち直し、再び海を見つめた。
気持ちも身体も荒れきっているのに、海だけは穏やかに海面を揺らしていた。
少しだけ落ち着いたような気持ちになったが、そんな気がしただけかもしれない。
脳裏にの顔が浮かぶ。
笑顔を見てから家を出たかったが、彼女がライアの目的に気付いてしまったせいで叶わなかった。
思い出されるのは泣き顔だけ。
思わず顔が歪んだ。